鉄道業界の流行り!~三大都市圏の座席指定車~

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日本の三大都市圏、すなわち首都圏・中京圏・近畿圏におけるラッシュ時の鉄道の混雑は深刻です。

特に首都圏のラッシュはすさまじく、着席に対する要望は高まるばかりです。

こうした傾向を反映して、数百円の料金と引き換えに着席を保証する指定席車の導入が今、鉄道業界の流行りとなっています。

首都圏の指定席車

首都圏で近年導入された例としては、東武の「TJライナー」西武の「S-TRAIN」「拝島ライナー」京王の「京王ライナー」東急の「Q SEAT」があります。

これらの車両はいずれも、窓に背を向けたロングシートの状態から、進行方法を向いたクロスシートの状態に切り替える「L/C」機能を持っており、指定席料金を徴収する際にはクロスシートで使用されます。

指定席車のシートの種類

「L/C」機能は近畿日本鉄道、すなわち近鉄が開発したものですが、近鉄ではL/Cカーを座席指定車には使わず、初めから有料特急用に製造された回転式リクライニングシート車を通勤用にも充てています。

小田急や西武、東武、京成にもリクライニングシートを備えた特急車が存在し、近鉄に準じた使われ方をしています。

やや特殊な例としては京急の「ウィング号」があります。

これは、L/Cシートとリクライニングシートの中間的な居住性を持つ転換クロスシートを備えた車両を用いたものであり、背ずりを裏返すことで進行方向に合わせることができます。

昼間時は料金不要の快特として使用されますが、早朝と夜間を中心に「ウィング号」として座席指定料金を徴収します。

京阪の方向転換

転換クロスシートは、近畿圏の京阪が古くから採用しており、その伝統を受け継ぐ京阪の特急車は「特別料金不要列車の最高峰」と評されることもありました。

その京阪特急が8両編成中の1両をリクライニングシートの座席指定車「プレミアムカー」に改造したため、近畿圏では大きな話題となりました。

関西人はケチ、という固定観念が根強く存在する中で「プレミアムカー」が定着するのか疑問視する向きもありましたが、ふたを開けてみれば平日7割、土休日8割という高い平均乗車率を上げました。

現在は特急および快速特急の約2/3に連結されていますが、将来は昼間時のほぼ全ての特急に連結される方針が示されています。

近畿圏の指定席車

もともと近畿圏では、先述の近鉄が特急網を形成しており、南海も高野線で古くから有料特急を走らせています。

特殊なのは南海本線の「サザン」であり、ロングシートの通勤車両とリクライニングシートの特急車両を4両ずつ連結するという前例のない編成で運転されているが、通勤時間帯を中心に一定の評価を得ています。

このように、近畿圏においても座席指定車が定着する土壌は以前から存在していたのです。

その中で京阪の「プレミアムカー」が懸念されたのは、「関西人はケチ」だからというよりも、転換クロスシートを備えた一般席車のレベルが高いために、リクライニングシート車といえども付加価値が認められるかが不安視されたからに他なりません。

中京圏の指定席車

それとても、中京圏の名鉄に先例があります。

名鉄では空港連絡特急の「ミュースカイ」を除き、特急および快速特急をリクライニングシートの座席指定車2両と転換クロスシートの一般席車4両(または6両)の併結で編成し、南海の「サザン」を上回るサービスを提供しています。

名鉄は特別車(指定席車)の料金を全区間360円に抑えており、これも乗車率向上に一役買っています。

プレミアムカーの勝因

京阪の「プレミアムカー」の料金は距離に応じて400円または500円と名鉄より高いですが、JRの特急のグリーン車並みにリクライニングシートを横3列に配置したのが最大の勝因だったと思われます。

これによって一般席車とのグレードの差が明確になり、文字通り「プレミアム」であることを乗客に認識させることに成功したのだと見るべきです。

京阪本線を大阪の淀屋橋から京都の三条まで乗りとおした場合、小数点以下切り上げで50kmとなりますが、運賃は410円と距離のわりにはかなり安くつきます。これは阪急との競争原理が働き、京阪の運賃が遠距離逓減制を採っているためです。

比べて、例えば近鉄の50km区間の運賃は750円にも達します。

つまり、50km区間の場合、京阪では「プレミアムカー」の料金500円を加えても910円に収まり、近鉄の運賃と160円しか変わらないのです。

この観点からすれば、「プレミアムカー」の利用が定着したことには何の不思議もありません。

指定席車の価値

今後は、三大都市圏といえども少子高齢化の波から逃れることは出来ません。

その中で鉄道会社が安定した収入を確保し、利用客に付加価値を提供するためには、指定席車の運転は必須条件になってくると思われます。

日本の鉄道会社の運賃は、総費用を総収入で回収し、そこに公正報酬率を乗じる「総括原価主義」によって決定されます。

すなわち、初めから一定の利益が保証されている反面、無制限に儲けることが出来ない仕組みになっているのです。

しかし、長期的に運賃収入の減少傾向が避けられない一方、費用を削減するのは困難が伴うので、鉄道会社が努力を怠れば運賃の値上げは避けられなくなります。

これに歯止めをかけるためにも、指定席料金の確保は大きな意味を持ちます。

言い換えれば、指定席を使わず運賃のみを支払う利用客にとっても、指定席の存在は重要なのです。

指定席料金の存在意義

例えば、先述の近鉄の運賃は京阪に比べて大幅に高いですが、これは近鉄の経営努力が足らないわけでも、ましてやぼったくりをしているわけでもありません。

ほぼ都市部のみを走る京阪とは異なり、営業距離が長く山間部を走る区間も多い近鉄は輸送密度が低くなり、費用回収のためには運賃を高くせざるを得ないのです。

さらに、「プレミアムカー」以外は料金不要の京阪特急に対し、グレードがそれほど変わらないにもかかわらず料金を要する近鉄特急は批判にさらされることが少なくありません。

しかし、もし特急料金(近鉄の場合は指定席料金と同義)を徴収しなかったらどうなるでしょうか。

近鉄は今以上に運賃を挙げなければ存続できなくなってしまいます。

それを防ぎ、結果的に特急を利用しない客をも利するのが、特急料金(指定席料金)の大きな存在意義なのです。

誤った歴史認識

京阪が「プレミアムカー」導入を発表した頃、京阪神間でかつて国鉄時代の快速に連結されていたグリーン車を引き合いに出す論調が見られました。

このグリーン車は利用が低迷したため廃止されたのですが、これは「関西人がケチ」であることの証明であり、よって京阪が成功を収めるとは考えられない、というのです。

だが、近畿圏には近鉄と南海という指定席特急の伝統があり、観光やビジネスだけでなく通勤特急としての役割を長年果たしてきました。

この「史実」をなぜ無視するのでしょうか。

間違った認識に立って分析を行えば、誤った結論に至るのは当然です。

「自由席グリーン車」の怪

JR東日本の普通列車(快速含む)の多くはグリーン車を連結しており、今後も増える予定になっていますが、このグリーン車は指定席ではなく自由席です。

つまり、高いグリーン料金を支払っても座れない場合がある、ということです。

これは、首都圏以外に住む人間から見れば信じられない事実です。

近畿圏で同じことを強行すれば暴動が起こりかねません。

混雑が激しすぎる首都圏に特有の現象と言えますが、座席を指定しないまでも、座席数を超えてグリーン券を発行しなければ座れない人はいなくなります。

その分収入は減ることになりますが、そもそも現在の状態がおかしいのです。

これからの指定席車

かつての京阪神間でグリーン車が定着しなかったのは、結局のところ費用対効果が小さかったからに過ぎないと見るべきです。

JR西日本も同様の認識を持っているようで、新快速に半室の指定席車「Aシート」を連結する方針を発表しました。

これはグリーン車ではなく普通車の指定席という扱いであり、料金は500円に抑えられます。

わずか2往復からのスタートではありますが、今後のJRの普通列車(快速含む)の定席サービスはこういった方針が主流になっていくのではないでしょうか。

さもなければ私鉄の有料特急には対抗できないでしょう。